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知性を持ったモータによるモータ制御の可能性
例えば、電車には運転手や連結部が不要になり、それぞれの車両が自律して目的地へ向かったり、乗客の増減による重量の差を計算して一定の速度で走ったり、また、線路に不備が発生すれば、周囲の車両が自分の意思で駆けつけて振替輸送に協力し合う。 それはまるで、幼児向けCGアニメ『きかんしゃトーマス』の世界ですが、そんな世界の実現もNidecのインテリジェントモータ®があれば夢ではありません。
インテリジェントモータ®とは、簡単に言うとマイクロコンピュータ(マイコン)を内蔵しているモータ。モータ自身が自ら考えたり、モータ同士で会話し、協調して動くこともできる、いわば知性を持ったモータです。
このモータのメリットのひとつは、モータに内蔵されたマイコンで位置制御や速度制御ができること。位置検出のためのエンコーダなどが不要になるため軽薄短小化でき、その分コストダウンにもつながります。また、モータごとの個体差の調整も自らおこなってくれるので、通常必要なチューニング作業が不要になるという利点もあります。
このインテリジェントモータ®があれば、例えば長尺の荷物を運ばなければならない場合でも、“A地点からB地点までその荷物を運ぶ”という大まかな指令さえあれば、あとは複数のモータが協調し合い、仮にひとつのモータが地面の凹凸などで傾いても、別のモータが瞬時にズレを補正し、バランスをとって水平を保ったまま運んだり、最も省エネとなる運び方や安全性の高い運び方を優先的に選んだりすることも可能になります。この協調制御は、すでにNidecシンポの次世代無人搬送台車「NEXT S-CART」で実現しています。
また、インテリジェントモータ®に音声認識機能を持たせれば、AIスピーカーのように、「回れ」と呼びかければ回り、「止まれ」と言えば止まるということも可能になるため、例えば、ドアに呼びかけるだけで開け閉めができたり、遠くにあるイスを近くまで呼び寄せるというようなこともできるようになるでしょう。
Nidecは、2025年までに、生産するすべてのモータをインテリジェント化する予定です。 現在Nidecの顧問である福永は、コンピュータの歴史は15年に一度大きな変革が訪れていると言います。1965年にメインフレーム(大型汎用コンピュータ)の時代が来て、80年ごろにパーソナルコンピュータ、95年にインターネット、2010年にクラウドの時代が来た。福永は、「2025年には50円スパコンを付けたインテリジェントモータ®の時代が来る。そして、モータを通じて社会の動向を捉えることができるようになる」と予測しています。 昔であればモータを制御するためには、外部にPCをつけ、専用の装置をつけて、ということが必要でしたが、それが非常に小さな、しかも50円程度のマイコンでできるようになるのです。「多大な開発コストをかけて専用ハードウエアをつくり長く使い続けるよりも、最新の汎用マイコンを使うほうが開発コストを削減でき、必要な性能も満たせるようになる。それなら使わない手はないだろうと。インテリジェントモータ®へのシフトは自然な流れです」(Nidec 西山)。
今、世の中の電気の53%はモータで消費していると言われています。そのモータがすべてインテリジェント化されれば、例えば「電気のカラーリング技術などと組み合わせることで、化石エネルギーのときは電気の消費を抑えて再生エネルギーのときに消費を増やす、というようなことも可能になる。Nidecは、年間約30 億個以上のモータを生産していますが、30億個というマスを考えると、インテリジェントモータ®は、エネルギーインフラにも相当影響を及ぼすのではないでしょうか」(木村)。
また、30億個というマスがあれば、そこから集めた情報をビッグデータとして活用することも可能になります。つまり、インターネットにつながった(IoT化した)インテリジェントモータ®が、センサとしてさまざまな情報を集め、集めた情報をビッグデータとして解析することで新たな付加価値を生み出すことができるのです。 例えば「自動車のワイパーのモータからワイパーがどのように動いているかのデータを集め解析することで、各地の天候情報がリアルタイムでわかるようになりますし、車の駆動部のモータから集めた走行情報から、そのエリアの交通状況がわかるようになるのです」(Nidec 木村)。
そして、これらの実現には、近年のエッジコンピューティング※技術の発展も大きな後押しとなっています。スマートフォンなどのモバイルデバイスでデータ処理をおこなうので、より大容量のデータでもリアルタイムまたは高速で処理することが可能になるのです。福永が予測する「インテリジェントモータ®を通じて社会のあらゆる動向を捉えることができる時代」の到来はそう遠くはないでしょう。
※エッジコンピューティング…ユーザーの手元にあるデバイス上でデータの処理を分散しておこなう技術。
インテリジェントモータ®の今後に必要なのは汎用化・共通化であると木村は語ります。独自性を出して固有化していくほうが大切だと言う声もありますが、それよりも、誰でもすぐに使えるほうがこれからの時代には重要。そのために、できるだけ情報をオープンにしてみんなの意見も吸い上げ、インテリジェントモータ®の思想自体を広く訴えていくことも必要です。 「買ってきてつければすぐに回る。いままでプロがおこなっていたようなチューニング作業も不要になるというのがひとつの理想型です」(西山)。
インテリジェントモータ®の汎用化・共通化が進めば、このモータが活躍できるフィールドや市場はますます大きくなるでしょう。そして、年間約30億個以上のモータを生産するNidecとしても、全モータのインテリジェント化にともない、ハードだけでなく、それを制御する通信ソフトウェアでもデファクトスタンダードを獲得することができれば、世の中への影響力はさらに大きくなり、社会に役立てることはもっと増えるはず。その自覚と責任を持って、Nidecはインテリジェントモータ®のさらなる進化・応用へ向けた開発に励みます。 すべてのモータがインテリジェントモータ®に取って代わったとき、そこにはどんな景色が広がっているのでしょうか。