メニュー
閉じる
Nidec公式サイトはこちら
ノートパソコンは、誕生以来つねに薄型化の試練にさらされてきた。80年代、まだノートパソコンと呼ばれる前、誕生してまもない可搬型コンピュータは、ラップトップ(膝の上)型コンピュータと呼ばれた。だが重さ5キロを超え、厚さも7〜8センチあるコンピュータは、おいそれと運べるものではなく、「ラップクラッシャー」と揶揄されることもしばしばだった。
それでもバッテリーを内蔵し、どこでも持っていけるというコンセプトはユーザーの熱視線を浴びた。いつでも持って運べるものに。ビジネスバックの中にしまえる厚さに。その声はPCメーカーにとって最重要のマーケティング戦略となり、1990年代から2000年代は激烈な小型化、薄型化競争が繰り広げられることとなった。
薄型化のプレッシャーはすべてのデバイスに降りかかった。バッテリーやディスプレイはもちろんのこと、ハードディスクも例外ではない。
精密小型モータ事業本部の今堀は、1994年の入社。ノートパソコンが大々的に普及していくなか、一貫してハードディスク用モータの開発に携わってきた。
「当時はなによりどんどん増えていく容量に対応できるモータをつくることが課題でした。既存の技術ではすでに限界が近づいていて、抜本的な見直しが必要という時期に来ていました」。
ハードディスクの基本構造は情報の信号を書き込むヘッドと、それを記録する磁性体。その磁性体を回すモータの3つ。ヘッドはミクロンレベルで磁性体に「1」「0」の情報を記録していく。一周回ったら、一周前に記録したトラックのすぐ隣のトラックの上に正確にヘッドが位置していないといけない。だが、回転するものはどうしてもブレが生じる。当時、ハードディスクのモータは、軸をボールベアリングで支えるのが一般的だった。自転車や自動車のタイヤと同じ要領だ。ボールの出来栄え、内輪外輪の出来栄えがトラックの精度を左右する。Nidecはその精度を高めるためにボールベアリングメーカーとともに惜しみなく技術を投入してきたが、それも限界に近づいていた。
そこで次世代の軸受として期待がかけられていたのが動圧流体軸受だ。ヘリングボーン状に刻みをいれた軸受に特殊なオイルを封入し、軸を回転させると圧力が発生して軸を支える。Nidecは世界で初めてこの技術を用いた流体軸受の量産化に成功。2000年に市場に投入されると、ハードディスクメーカー、PCメーカーから圧倒的な支持を受けた。流体軸受となることでも、HDDモータのパーツは少なくなり、薄型化にも貢献した。「ラップトップPC」という言葉は聞かれなくなり、「ノートパソコン」が主流となっていたのと時期的に重なる。当時ノートパソコン用のハードディスクの厚さは9.5mm。10年前とは隔世の感があるが、それでも市場の薄型化への要望は止まることはない。
2006年入社の精密小型モータ事業本部の佐藤が証言する。「軸受が短くなれば、その分振動は増します。長い方が軸を支える面積が広いのでしっかりしてくるのです。それでも薄くしてほしいというお客様の要望は増えるばかり。いったいどこまで薄くできるのか。毎日アイデアを出してはテストする繰り返しでした」。
オイルの流路の細かい設計の見直し、オイル漏れを防ぐ仕組み、オイルの種類等々、試行錯誤を繰り返し2010年、ついに厚さ7mmのハードディスク用モータが世に送り出された。PCメーカー、HDDメーカーはこぞってこのモータを採用。一時は世界シェア90%を超えた。2015年には、Nidecの超薄型高速ハードディスク用モータは、全国発明表彰において「文部科学大臣賞」も受賞した。
いまや少なくても厚さを気にしてパソコンをビジネスバッグに詰めることを躊躇する人は、いない。薄型化が進んだ背景には、モータの薄型化が果たした役割も小さくない。
2016年ごろからは次第にノートパソコンの記憶媒体はSSDに置き換わっていく。だが、薄型モータの技術はファンなどに応用され、いまもPCの薄型化に貢献している。「薄くなれば、これまでモータを取り付けられなかったところにも組み込めるようになる。実際、ファンを内蔵した服やマスクなど、新たな価値が提案されています」と今堀は言及する。
薄さへの挑戦が切り開く新市場。モータにかけられる期待は大きい。
FDBの開発・製造にいち早く着手し、HDDの高密度化、静音化を大きく加速。HDD用スピンドルモータNo.1の座を維持し、世界シェアは80%を超えています。
PCの薄型化はPCに内蔵されるデバイスの薄型化でもあり、HDDスピンドルモータの世界No.1のシェアを保有するNidecもモータの薄型化により、ノートPCの進化を支えてきました。