2-1-5 鉄心溝のあるDCモータの回転原理
それでは最初の疑問に戻りましょう。鉄には、空気に比べて1000倍ほど磁気を通しやすい性質があります。この性質のため、鉄心溝(スロット)のあるロータ(回転子)では、図2.18 のように、鉄心に磁力線が集中して、コイル部の磁界は極端に弱くなります。これでは「磁界中に置いた電線に」というBLI則や「電線が磁界を横切る」という逆起電力の前提条件が成り立ちません。
またコイルに通電してないときも、モータシャフトを指で回すと、ロータの歯と永久磁石の作用によって、ゴツゴツとして反抗力を感じることがあります。これをコギングと呼びます。
BLI則と逆起電力による説明だけでは、コギングの影響も検討できません。
そこで鉄心付きモータのトルク発生原理について、2つの側面から説明を試みましょう。
(A)磁力線の張力による説明
磁石同士が引き付けあったり反発する力、あるいは磁石が釘を引き付ける力は、BLI則で説明できません。つまり、磁気の作用による力は、磁界の中の電流による作用としては説明しにくいのです。実際には、物理学の深いところでは関係があります。
これを磁力線という概念によって統合して説明する方法があります。磁力線には、ゴムひものように縮もうとする作用があります。鉄の近くに電線を置いて電流を流すことで磁力線を曲げると、真っ直ぐになろうとする力が働きます。図2.19 はこの原理によって、DCモータのトルク発生を説明しています。
<一口コラム> と (ドットとクロス)
図2.19 の はドットといい、紙面の裏側から紙面の上へ向かう方向を表します。
逆に はクロスといい、読み手から紙面へ向かっていく方向を表します。図2.19(a)でのネジの図と対応させると覚えやすいと思います。
(B)逆起電力による説明と計算
モータの発電作用の項目で、トルク定数と逆起電力定数は、基本的に同じものだという説明をしました。ここで図2.8 を見直すと、鉄心溝のある模型用モータでも、逆起電力は発生しています。
これは電線が磁界を切るというよりも、図2.20 に示すように、コイルと鎖交する磁束の時間的変化の割合いとして逆起電力が発生し、それが、ブラシと整流子によって整流(AC→DC変換)されて、直流の逆起電力として観察されたと考えることができます。
(2.9)式で見たようにKEとKTは同じものです。そこで、トルクを解析する代わりに逆起電力を観察し、求めたKEをそのままKTとすれば、トルク計算が可能になります。これが第二の説明方法です。
それではこの方法で、コギングはどう考えればよいでしょうか。簡単にいうと、この成分を加算すればよいのです。
コギングトルクの計算法はいくつかありますが、いずれにしても難しい数式になってしまいます。
本書では詳しい説明は省略し、この方法でも鉄心のあるモータのトルク計算が可能なことだけを紹介します。詳細を知りたい方は参考書として[1]をご覧ください。
[文献]
[ 1 ]見城・永守:新・ブラシレスモータ,第5章,総合電子出版社
同書で展開している理論は、基本的なことでありながら今まで専門家にも知られていなかった基本原理について解説した、世界唯一の本です。初学者には手強いかもしれませんが、モータの専門家を志す方はぜひチャレンジしてみてください。
<一口コラム> 鎖交(さこう)
磁束とコイルとは、次の図のように、鎖のような関係でつながっています。
これが鎖交という言葉の意味です。モータやトランスでは、電線の巻数と関係してこの言葉が使われます。鎖交磁束とは、磁束(単位:Wbウェーバ)とコイル巻数との積のことです。