NIDECの技術力
トラクションドライブの静音化技術
静音性への配慮が求められる場で活躍する自動搬送装置の実現へ
少子高齢化によって労働人口の減少が進む現在、物流システムの現場では、人に代わって物品を運搬する自動搬送装置の普及が進んでいます。磁気テープなどのガイドに沿わなくても移動できるガイドレス化も進展しており、工場や倉庫以外での活用にも期待が集まっています。しかし、ホテルにおける利用客の荷物運びや、オフィスでの資料や機材の移動、図書館における本の運搬などへの運用を想定すると、施設利用客・利用者への配慮から従来以上の静粛性が求められます。そこで注目されているのが、静音性に優れたトラクションドライブです。
潤滑油を高圧で固体化させて動力を伝達
トラクションドライブは、潤滑油膜を介して互いに押し付けられて転がりあっているローラーを用い、一方のローラーから他のローラーに動力を伝達する技術です。
ローラーの接触部はとても高い圧力になります。液体の分子は通常の圧力下では自由に動き回っていますが、高圧下では規則的に整列し固体の結晶になります。トラクションドライブはこの性質を利用してローラーからローラーへと動力を伝達しています。
ギアとは異なり、歯車のかみ合いによる衝撃音が発生しないため静音性が高く、回転しないときもローラー同士が絶えず接触しているためバックラッシュを小さく抑えることも可能です。
歯車の歯のピッチ誤差(加工精度)による高周波の速度変動も発生せず、非常に滑らかに動力を伝達することができます。
ニデックドライブテクノロジーでは1952年からトラクションドライブを用いた産業用変速機を製品化しており、これまで多くの産業機器に使用されてきました。
度重なる改良で小型化を実現
トラクションドライブの欠点として、特定のサイズで実現できる伝達トルクが、歯車減速機に比べて低いため、体格が大きくならざるを得ないことが挙げられます。かつては同等のトルクを取り出すために仕様によっては4~5倍のサイズにしなければならないこともありました。
ニデックドライブテクノロジーは、トラクションドライブの小型化に取り組んできました。原理上、ローラー間を押し付ける力を大きくすればするほど、伝達トルクは大きくできます。しかし、大きな力でローラーを押し付けると、接触面の圧力が高くなりすぎて、部品自体の寿命が短くなるため、ある程度の大きさの確保が必須となってしまいます。
そこで、押し付け力の上昇に耐えられるよう、ローラーの形状を工夫し、ローラー同士が接触する面積を点から線に広げることで押し付け力の分散を図る設計とすることで解決しました。さらにFEM(Finite Element Method)解析を利用したコンピューターシミュレーションで、構造を最適化することで高圧にも耐えうる部品強度を実現しました。現在では、歯車減速機とほぼ同等のサイズを達成することに成功しています。
歯車減速機に比べて13dBの静音化に成功
ニデックドライブテクノロジーは、2016年に業界他社に先駆けて走行ルートを自由に設定可能な無人搬送台車「S-CART」を開発しました。動力の伝達は歯車減速機ながら、100kg/200kg/500kg/1t積載対応の幅広いモデル展開から好評を得ています。最近ではホテルでの荷物搬送業務の補助を想定し、荷物を運んでスタッフや宿泊客について回る追従機能を搭載したホテル用無人台車を開発しました。このホテル用S-CARTにトラクションドライブを採用し、ホテル用途での拡販を企図しています。
同筐体で歯車減速機、トラクションドライブを、それぞれ搭載した無人搬送台車による騒音比較実験では、トラクションドライブの方が13dB低いという結果でした。図書館の中を走行させても、走行音が気にならないレベルで、十分な市場性を期待させる結果が得られました。
2020年に社内の耐久試験も合格し、いよいよ量産化に向けた最終調整に入っています。また、小型化、静音化への取り組みは終わりのない挑戦と考えており、将来的には、歯車減速機よりも小さく、モータの回転音よりも静かなトラクションドライブの実現を目指しています。