2021年度特集 - 統合報告書2021

技術戦略

2030年度連結売上高10兆円に向けた研究開発体制の進化 専務執行役員 小関 敏彦

当社は「クルマの電動化」「ロボット活用の広がり」「家電製品のブラシレスDC化」「農業・物流の省人化」「5G通信に起因する次世代技術の普及」といった、「5つの大波」に伴う市場トレンドに注目しています。これらのテーマは、CO2排出量の削減や労働人口の高齢化への対処といったグローバルな課題であり、課題へのソリューションを提供する製品群の開発が日本電産の「世界一高性能なモータで地球に貢献する」との使命の遂行につながっていきます。グローバルな課題へのソリューション提供に結び付く研究・開発組織間の技術融合を重要課題と認識し、研究開発を進めてまいります。

※ 「統合報告書2021」 P.19、または「価値創造プロセス」ご参照。

研究開発体制

 各事業本部内に設置している開発部門のほか、「全社共通組織」として中央モーター基礎技術研究所、台湾モーター基礎技術研究所においてモータ全般の要素技術研究を行っており、電子回路技術、熱、騒音・振動技術、制御等の要素技術研究の一層の高度化を推進しています。また、生産技術研究所において、ロボットやIoTを利用したスマートファクトリーの実現、新素材や新システムの開発、検査技術革新、データ解析、シミュレーション等、既存の製造方法の枠にとらわれない生産技術の進化に主軸を置く研究開発を行っています。
 オープンイノベーションについては、生産技術研究所をものづくり基盤の強化と、大学、研究機関、企業とのネットワークによる世界に貢献する技術の創造を目的として2015年に発足させています。また、2012年開設の台湾モーター基礎技術研究所は台南のSTIR(Southern Taiwan Innovation & Research Park)内にあり、高度な技術を有する工業技術研究院や金属工業研究開発センターおよび主要な大学、台湾企業との連携を図り、モータ構造やモータ制御の基礎研究を主な研究テーマとしています。

中央モーター基礎技術研究所(川崎)
中央モーター基礎技術研究所(川崎)
生産技術研究所(京都)
生産技術研究所(京都)

各事業部門では主に以下の研究開発を実施しています。

精密小型モータ部門

 精密小型DCモータ・ファンモータ等精密小型モータ全般にわたる基礎および応用研究、新製品の研究開発、各拠点の技術的支援研究のほか、HDD用モータの新機種量産化および製品の品質向上を目的とした研究開発を実施しています。

車載部門

 脱炭素社会の実現に貢献する電気自動車用駆動モータシステム「E-Axle」をはじめとする各種車載用モータ等に関する新製品および新機種量産化、製品の品質向上を目的とした研究開発を、滋賀技術開発センター(滋賀)および大連技術開発センター(中国)で主に実施しています。当社がEV関連事業を展開している中国において大連技術開発センターを開設することにより、顧客への迅速なサポートおよび現地での技術者採用が可能となり、当社EV関連事業を支える大きな礎となっています。

大連技術開発センター(中国)
大連技術開発センター(中国)

家電・商業・産業用部門

 家電用モータでは、主に洗濯機、乾燥機、食洗機、コンプレッサー用のモータや、冷蔵庫用のコンプレッサー等の、住宅・商業用モータでは、空調設備用、冷蔵機器用、調理機器用のモータ・ギア・制御装置等の研究開発を実施しています。また、産業用モータでは、上下水道用・灌漑用・ガス採掘用等各種ポンプ用モータに加えて、産業用の車両駆動用モータや各種発電システムと蓄電システムを統合した総合ソリューションの開発も行っています。

研究開発費について

 2020年度のグループ全体の研究開発費は673億円、連結売上高における割合は4%程度でした。今後も継続的に研究開発費は投下していく予定です。

Vision2025における研究開発の役割について

 新中期戦略目標「Vision2025」の連結売上高4兆円達成には、市場が急拡大するE-Axleの製品競争力強化が重要課題となります。中でも重要となるのはE-Axleの次世代機種の開発です。E-Axleは既存機種から設計構造を根本的に変更しない限り大幅コストダウンは困難となっています。現在、当社はE-Axleの主要3構成要素である、モータ、ギア、インバータそれぞれについて、明確なコストダウンターゲットを設定し、次世代機種の開発に取り組んでいます。
 中でも、重要となるのが「内製化」です。「内製」には2つの意味があり、①内製によるコストダウンと ②内製による供給の安定化です。 ①については、内製化を徹底することで外部購入部材に含まれている余分な機能を排除し、必要な機能に絞ることでコストダウンを実施することを指します。 ②については、部材に加えて設備を内製化することで、外部からの部材、設備購入がボトルネックとなり供給能力制約が発生することを避ける戦略です。EV市場のように規模の急速拡大が予想される市場においては、部材、設備の内製化は市場が大きく拡大した際に競合に対する圧倒的な競争優位を産むことになります。
 次世代機種の開発において、もう1つ重要なポイントはプラットフォームの標準化です。現在、E-Axleの開発は顧客の要望に従い、個別モデルごとの「個別最適」の設計となっていますが、共通設計化を加速することで、開発に必要な人員を含めたリソースの効率化、結果としての製品コストダウンおよび競争力強化が可能となります。「プラットフォーム開発センター」を2021年に立ち上げ、組織面からもE-Axleの標準化に向けたプロジェクトをスタートしています。
 研究開発は今後も日本電産が売上高10兆円に向けて成長を持続していく上で、重要な礎となります。社会のニーズと会社の成長をリンクさせるという使命を忘れることなく、日々の研究開発を実施してまいります。

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