2012年度特集 - 日本電産のリスクマネジメントと経営戦略
3. 顧客・地域リスクの分散
顧客リスクの分散を図るビジネスポートフォリオの転換
当社グループの事業では、売上高・利益ともにHDD用モータのウエイトが圧倒的に高く、加えてグループ総売上高の中で「顧客別売上高」上位3社がHDD用モータの顧客であることは、当社グループの強みであると同時にリスク管理上の課題でもあります。
持続的成長を目指す当社グループにとって、他の事業分野の伸長を図り、HDD用モータへの依存度を下げることはリスク管理の面からも重要な経営政策です。このため当社グループはビジネスポートフォリオの大幅な転換を進めています。
「年度別売上高構成比率(図4)」を見ると、最も大きな売上拡大を見込んでいる一般モータ(車載用、および家電・産業用モータ)の売上高構成比が大きく変化していることが分かります。なかでも電動パワーステアリング用モータは業績の伸びが著しく、加えてフランス・ヴァレオ社、イタリア・ソーレモータ社、米国・エマソン社の事業部門などのM&Aにも積極的に取り組んだことが一般モータ事業の急速な売上拡大につながっています(表1)。
全売上高に占める一般モータの比率は2011年度には26%へと前年度より6%伸長しており、ビジネスポートフォリオの転換は順調に進展しています。
産業用モータ事業の強化策として、2012年にイタリアの産業用モータ・重電大手の「アンサルド・システム・インダストリー社※3」(ASI社)を買収しました。最大出力3,700kWまでの大型モータを得意とする日本電産モータと、その10倍もの出力がある35,000kWの超大型モータを手がけるASI社が加わったことで当社グループの活躍分野は大きく広がり、将来は産業用モータ市場でも世界一のモータメーカーになることを目指しています。
当社グループには、パソコン、自動車に次いで鉄道、船舶、飛行機市場へとモータの活躍フィールドを広げていくという夢があり、船舶用のモータや発電機を手がけているASI社の買収には、ビジネスポートフォリオの転換というだけでなく、次世代事業戦略の狙いも込められているのです。
- ※3 アンサルド・システム・インダストリー社(ASI社)
- 本社:イタリア・ミラノ市。主要拠点は、イタリア4拠点のほかフランス、ロシア。1853年に設立し、約160年の歴史がある。産業用モータの大手として知られ、このほか、発電機および低電圧・中電圧ドライブ事業、産業システムおよびオートメーション事業、メンテナンス等のサービス事業を手がけている。従業員は約1,200人。2011年12月期の売上高は、2億9200万ユーロ(約310億円)。
地理的な市場分散を進めグローバル化をさらに推進
顧客リスクの分散と同時に進めているのが地理的な市場リスクの分散です。
パソコンの分野では完全にグローバル化が進み、一部の言語やソフトを除いて、国・地域特有の使われ方による製品特性が見られなくなっています。例えば、当社がタイで生産したHDD用モータは、中国で生産されるパソコンに組み込まれ世界のあらゆる国に輸出されています。携帯電話やスマートフォンも同様で、いまや世界中で同じシステムの製品が使われているのです。
ところが、車や家電・産業分野はまだそういう状況にはありません。アジア、欧州、米州では売れる車が違い、洗濯機、食器洗浄機、エアコンなどの家電製品も、それぞれの国・地域の風土や習慣によって製品仕様が異なります。
そこに新たなビジネスチャンスが生まれる余地があります。日本やアジアにとどまらず、世界各地のマーケットへ進出することはリスク分散の観点からも重要な対策となることは間違いありません。
進出に際しては、当該国で自社生産を行うか、もしくは当該国で根を張って事業を展開している企業を買収することにより、グローバル・ネットワークの構築を進めています。
車載用モータについては、2006年にフランス・ヴァレオ社、2010年にはSRモータ技術を持っている米国・エマソン社からモータ事業(現日本電産モータ)を買収して欧州・米州における事業拡大を図ると同時に、近くインドにも生産拠点を設ける予定です(図5)。
家電用モータについては、2010年にイタリア・ソーレモータ社を買収し、これに上述の日本電産モータを加えて業容を拡大しています。産業用モータ事業では、2012年に買収したイタリアのASI社が欧州のほかロシアや南米にも販路を持っており、今後のグローバル・ネットワーク構築における重要な役割を担っています(図6)。
以上のように、車載用モータ、家電・産業用モータ事業は、顧客・製品・地域の3側面から当社グループのリスクマネジメントを支える柱となります。