2012年度特集 - 日本電産のリスクマネジメントと経営戦略
2. 調達リスクの分散
東日本大震災の教訓
調達のリスクマネジメントを考える上で、2011年3月に発生した東日本大震災から当社は重要な教訓を学びました。
それは、自社だけが回復すればものづくりができるようになるわけではなく、顧客企業のサプライチェーン(原材料や部品等の供給網)全体の機能回復が必須であるということです。被災地では多くの企業が操業停止に追い込まれましたが、その理由の一つはサプライチェーンが寸断されたことにありました。
代表的な例は部品が3万点もあると言われる自動車業界です。東北地方には自動車部品のサプライヤー企業が多く、とりわけ部品点数が多い電子回路を生産しているサプライヤー企業の被災は、自動車業界にとって深刻な問題となりました。
東北地方が部品の一大供給地であることが影響したという点では、HDD業界にも同じことが言えます。HDDにもさまざまな電子回路が使われており、それらが供給されないとHDDを生産することはできません。あるHDD大手企業は、東日本大震災によって供給元の工場が被災したため電子回路部品の調達が困難となり、減産を余儀なくされました。
当社グループの場合、日本電産コパル※1と日本電産コパル電子※2の工場が被災すると同時にサプライチェーンもダメージを受けましたが、自宅が被災しながらも会社を立て直そうと連日出勤した現地社員による懸命の努力が功を奏し、生産体制をいち早く整えることができました。両工場が生産する製品だけでも50~60社のサプライヤー企業と取り引きがあるため、購買担当者は1社ずつ被災状況、復旧の見込み時期、在庫の場所や量を確認する作業に追われました。
こうして当社グループは幸い早期復旧を遂げることができたものの、全てのサプライヤー企業の部品が揃わない顧客企業は生産活動を一時停止せざるを得ませんでした。この経験から、サプライチェーンが全体で機能することが顧客企業にとっていかに重要かを改めて痛感することとなりました(図3)。
マルチプル・ソーシングの再構築を開始
原材料や部品の調達における不測の事態に備え、当社グループは原則としてマルチプル・ソーシング(複数の調達先からの購買)を採用してきました。
例えば、HDD用モータに使う磁石は日本と中国のメーカー3社から調達しており、このうち1社はタイに生産拠点を持っているなど、サプライヤー企業数・購買比率・生産地域の分散を考慮した調達を図っています。
タイの大洪水の際には、タイを生産拠点とするサプライヤー企業からの調達は困難になりましたが、中国で生産しているサプライヤー企業からの調達を増やすことにより磁石数量の減少を最小限に抑えることができました。これがマルチプル・ソーシングの効果です。
しかし、東日本大震災では別の教訓も得ました。大震災のあと、調達部品ごとにサプライヤー企業の数とそれぞれの生産地域や生産体制、調達比率などを精査したところ、ある特殊なゴム部品については、一次サプライヤーこそ複数社いたものの、二次サプライヤーは1社しかないことが判明しました。電子部品業界の再編成により必要な部品を供給できるサプライヤー企業が集約されたことが原因ですが、今後の不安要素であることは事実です。
そこで、当社グループより川上の一次、二次、さらには三次サプライヤーのリスクも視野に入れた事業継続計画(BCP)の見直しを進めています。
購買先企業の多様化、生産立地の分散、購買比率の配分を通じて、一次サプライヤーだけでなく、二次サプライヤーで不測の事態が発生した場合でも調達活動を継続できる体制を確立していきます。
レアアースフリーを実現したSRモータへの期待
安定供給を図る上で重要な条件の一つとして、特定の国・地域、サプライヤー企業に部材や原材料を依存しないことが挙げられます。
現在、当社グループが生産するHDD用モータの基幹部品である磁石にはネオジムが使われており、電動パワーステアリング用モータの磁石にはネオジムとジスプロシウムが使われています。いずれもレアアースと呼ばれる希少鉱物であり、主な原産地は中国です。価格や調達上のリスクを抱えていることは間違いありません。
そうしたリスクを最小限に抑えるため、当社グループは早くから独自の技術開発を進めるとともに、M&Aを通じて磁石を一切使わないSRモータ技術を獲得しました。SRモータはエネルギー効率、温度特性、コストパフォーマンスにおいて従のモータを上回っており、米国では中・大型車両のバスやトラックへの採用が進んでいます。また、日本では電気自動車・ハイブリッド車向けのモータとしても注目を集めています(EV JAPAN展) 。
サプライチェーンの最上流にある原料まで遡ると調達リスクは多種多様となり対策も一様ではありませんが、「どのような時でも供給責任を果たす」べく、当社グループは引き続き調達リスクの分散に取り組んでいきます。