2012年度特集 - 日本電産のリスクマネジメントと経営戦略
1. 生産リスクの分散
タイ洪水での浸水被害からモータの供給を早期回復
2011年10月にタイで発生した大洪水によって明らかになったのは、生産拠点を分散していたことが被害を最小限に抑え、早期復旧を可能にしたという点です。主にパソコンやサーバーなどに使われているハードディスクドライブ用モータ(以下、HDD用モータ)の分野において、日本電産グループは世界シェアの約80%を占めており、生産量の62%がタイに集中していました。
当社の操業停止が原因でHDDの生産ができない事態が起こると、顧客を始め、サプライヤーにもエンドユーザーにも、極めて大きな影響を与えることになります。そのようなリスクを回避するため、当社グループは、基幹製品であるHDD用モータの生産拠点をタイ、中国、フィリピンの3ヶ国に振り分け、タイにおいても3県7拠点に分散していました(図1)。
大洪水によりタイの6拠点が稼働を停止したため一時は最悪の事態を想定せざるを得ませんでしたが、タイ拠点の早期復旧に加えて中国、フィリピンからの代替調達が可能だったことから、顧客への製品供給を続けることができました。
いつ、どこで発生するか分からないリスクによる被害を最小化するため、複数の拠点で同じ製品を生産できる体制を敷いていたことが奏功しました。
生産拠点の国際分散を進め円滑な代替生産を実現
タイの大洪水により反省すべき点も明確になりました。当社HDD用モータの顧客の6割強がタイに集中していることもあり、顧客の近くで製品を生産・供給してきた当社グループの同地における生産比率が高くなり過ぎていたことは否めません。このため、現在タイの生産比率を引き下げ、フィリピンと中国の生産比率を合わせて50%程度まで引き上げる方針をまとめ、その準備を進めています(図2)。
各国の拠点にすべての機種を少量でも生産できるラインを整備し、いざというときには設備を増強して対応すれば顧客との信頼関係を損なうことはなく、世界中のエンドユーザーへの製品供給も確保されます。
東日本大震災とタイ大洪水のいずれにおいても、リスク分散体制を持つ企業と持たない企業の間には事後に大きな差が生じています。生産効率だけを追求するのではなく、リスクマネジメントの観点からも十分な対策を講じておく必要があることを再認識することとなりました。
異常事態に際していかに生産能力を補いながら供給責任を果たしていくのかが重要であり、生産拠点の国際分散と代替生産を容易にする製品の標準化は、そのための必要不可欠なステップと考えています。