気候変動対策

TCFD提言に関する取り組み

NIDECグループは2022年4月にTCFD提言への賛同を表明しました。シナリオ分析を通じて気候関連リスク・機会が及ぼし得る財務上の影響を把握し、それらを経営戦略に組み込むことで、脱炭素社会の実現に向けた取り組みを一層充実させていきます。

TCFDのロゴ

ガバナンス

監督体制

NIDECグループでは、社外取締役が委員長を務め、社内取締役2名、社外取締役3名で構成されるサステナビリティ委員会において、サステナビリティに関する業務執行の監督、取締役会への報告を行います。サステナビリティ委員会は四半期に一度開催されます。

執行体制

NIDECグループでは、社長が議長を務め、経営会議メンバーで構成されるサステナビリティ推進会議において、環境を含むサステナビリティ重要課題(マテリアリティ)に関する業務執行状況の確認、サステナビリティ活動方針および重要事項の審議・決議を行います。また、同会議の下に環境マネジメント分科会、気候変動対策分科会を設置し、NIDECグループ全体の環境関連の取り組みを推進しています。

サステナビリティ推進体制

サステナビリティ推進体制

2023年度サステナビリティ委員会開催実績

2023年度サステナビリティ委員会開催実績

取締役業績連動型報酬へのESG目標の反映

2024年より取締役(グローバルグループ代表、社外取締役および監査等委員である取締役を除く)の業績連動型株式報酬に対して、単年度における業績目標の達成度等に応じた業績連動係数を組み入れています。ESG目標の達成度については、MSCI、FTSE、CDPの3機関による当社のESGレーティングまたはスコアに基づき決定し、業績連動係数に反映します。

業績連動係数の評価指標・ウェイト

業績連動係数の評価指標・ウェイト

戦略

当社連結売上高の95%以上を占める事業領域(精密小型モータ、車載、家電・商業産業用、機器装置)から選抜した経営幹部および実務担当者計143名が、以下の手順に従ってシナリオ分析を実施し、事業インパクトの大きい気候変動リスク・機会を特定するとともに、対応策を検討しました。
シナリオ分析結果は各事業本部長、サステナビリティ推進会議およびサステナビリティ委員会へ報告されました。

ワークショップの様子1 ワークショップの様子2
ワークショップの様子

シナリオ分析ステップ

シナリオ分析ステップ

対応策の具体事例

生産工場の地理的分散

当社は世界40カ国以上に300社を超えるグループネットワークを有しており、拠点を地理的に分散させることで地政学的リスクや気候変動による物理的リスクの低減を図っています。

グループネットワーク

軽薄短小技術による小型軽量化、省資源化

当社はモータの小型軽量化、省資源化を通じて社会・環境側面に配慮した製品作りを行っています。EV用トラクションモータシステム(E-Axle)の第1世代(Gen.1)では、精密小型モータ事業で培ってきた軽薄短小技術と油冷構造の採用によりモータの圧倒的な小型化を実現しました。2022年9月に量産を開始したE-Axleの第2世代(Gen.2)は高占積巻線技術による磁気回路の小型化、インバータの小型化により、Gen.1比で重量を19%軽減し、鉱物の使用量も大幅に削減しました。また、新開発の2Wayオイル循環方式による冷却能力の向上により、Dy(ジスプロシウム)、Tb(テルビウム)等の重希土類を大幅に削減した磁石の採用を可能としています。今後は重希土類や磁石を使用しないモータの開発を計画しています。

事業インパクトの大きい気候変動リスク・機会および対応策

気候変動リスク・機会の影響 対応策 精密小型モータ 車載 家電・商業・産業用 機器装置
SPMS AMEC ACIM MOEN 機械事業本部
移行リスク 政策・法規制 炭素税の導入
  • 炭素税による製造コストの増加、価格競争力の低下
  • 照明のLED化や省エネ設備の導入、低炭素燃料への置き換え、製造プロセスの最適化などによるスコープ1排出量の削減
  • 再生可能エネルギー導入によるスコープ2排出量の削減
  • 再エネ導入コストの増加
    炭素税への対策を行った場合
  • コーポレートPPAなどの長期契約による低コストでの再生可能エネルギーの導入
  • 原油や化石燃料由来電力の調達コストの増加
  • 再生可能エネルギー導入
  • 照明のLED化や省エネ設備の導入
  • 原材料への炭素課金による調達コストの増加
  • 低炭素材料(再生原料を含む)の使用
  • 軽薄短小技術による小型軽量化、省資源化
  • 調達先のマルチソース化
  • サプライチェーン温室効果ガス(スコープ3)排出量の削減
燃費・ZEV規制の強化
  • 内燃機関関連製品の製造施設の減損
  • 他機種への転用を可能にする汎用性の高い設計の採用
  • 製造設備の他製品への転用
  • 新規参入企業増による競争激化、価格破壊
  • 技術力、価格競争力の高い製品の開発
  • シェア拡大に伴うスケールメリットの獲得
  • 知的財産の保護・活用
  • EV市場拡大による原材料の調達競争激化
  • 軽薄短小技術による小型軽量化、省資源化
  • 代替素材を活用するための研究開発強化
  • 垂直型M&Aの実施
  • 供給能力の高いサプライチェーンの構築
  • サプライヤーとの長期契約の締結
レアアース関連規制の導入
  • レアアースの調達困難化、調達コストの増加
  • 重希土類、磁石不使用の製品開発
  • 供給能力の高いサプライチェーンの構築
技術 研究開発力への影響
  • 新製品開発遅延リスク
  • 研究所と連携した要素技術の開発
新技術への投資の失敗
  • 顧客から求められる環境性能を満たせなかった場合のビジネス機会損失
  • 顧客との共同開発の実施
  • 軽薄短小技術による小型軽量化、省資源化
低炭素技術への移行
  • 低炭素原材料や低炭素プロセスへの変更に伴うコストの増加
  • 軽薄短小技術による小型軽量化、省資源化
  • サプライヤーを巻き込んだ取り組みの推進
市場 顧客行動の変化
  • 顧客からの再エネ使用促進の要請の高まりや、CO₂排出量削減が計画通り進まないことに伴う取引停止
  • 照明のLED化や省エネ設備の導入、低炭素燃料への置き換え、製造プロセスの最適化などによるスコープ1排出量の削減
  • 再生可能エネルギー導入によるスコープ2排出量の削減
  • 顧客との協働による環境関連の取り組みの推進
  • サステナビリティ経営の推進
  • 適切な情報開示とステークホルダーとの対話の強化
原材料の入手困難化、調達コストの増加
  • 希少鉱物、鋼材、その他ハイエンドアルミや銅等の非鉄金属の入手困難化、調達コストの増加
  • 再生原料の使用
  • 軽薄短小技術による小型軽量化、省資源化
  • 重希土類、磁石不使用の製品開発
  • 供給能力の高いサプライチェーンの構築
評判 投資家の評価の変化
  • ESG評価基準の厳格化と開示要請分野の拡大による対応コストの増加
  • 投資家や金融機関から情報開示が不十分とみなされることによる資金調達の困難化
  • 信用格付けの低下
  • 適切な情報開示とステークホルダーとの対話の強化
物理的リスク 急性 洪水・冠水・集中豪雨・台風の影響
  • 工場の操業停止
  • 固定資産・在庫の毀損
  • 電気、水供給などのインフラ網の機能停止
  • 別工場での生産や輸送などの対応コストの発生
  • サプライチェーンの寸断
  • 保険料の増加
  • 生産工場の地理的分散
  • 調達先のマルチソース化
  • BCP(事業継続計画)の実施
慢性 干ばつ・渇水・降水パターン変化の影響
  • 水の安定確保の困難化、取水制限による工場用水の不足
  • 水価格上昇によるコスト増加
  • 電力の需給逼迫による工場停止、原材料生産・調達能力の制約、部材購買コストの増加
  • 降水、気温パターン変化による水質の悪化
  • 生産工場の地理的分散
  • 水使用量削減のための製造プロセスの最適化
  • 水のリユース、リサイクル率の向上
機会 製品/
サービス
脱炭素に貢献する商品の市場拡大
  • 電動車・電動バイク市場拡大に伴う関連製品(E-Axle、電動パワーステアリング用モータ、ブレーキ用モータ、電動オイルポンプ用モータ、電動バイク駆動用インホイールモータなど)の需要増加
  • 省エネ製品(ブラシレスDCモータ、冷蔵庫用コンプレッサー、データセンター向け水冷モジュール・HDD用モータ、産業用高効率モータ、省エネ性能の高い工作機械、環境に優しい減速機など)の需要増加
  • 再エネ関連製品(BESS、スマート・マイクログリッド・ソリューション、風力・水力発電関連製品、小規模発電機、風力・ガスタービンケース製造用工作機械など)の需要増加
  • プラスチック問題の解決に貢献する製品(製缶用プレス機)の需要増加
  • 関連製品の開発強化
  • 製品の小型軽量化、低消費電力化
気温差拡大対策商品の市場拡大
  • 空調関連製品の市場拡大に伴う関連製品(エアコン用モータ、空調服用ファンなど)の需要増加
  • 温度変化に適応可能な工作機械・プレス機械の需要増加
市場 EV市場の拡大
  • 電動車・電動バイク市場拡大に伴う関連製品(E-Axle、電動パワーステアリング用モータ、ブレーキ用モータ、電動オイルポンプ用モータ、電動バイク駆動用インホイールモータなど)の需要増加
  • 高精度な工作機械の需要増加
電化の進展
  • 電化の進展に伴うモータ需要の拡大
新製品・新市場への参入
  • 電動航空機・船舶、ヒートポンプ技術を含む新市場の拡大
レジリエンス サプライチェーンの強化
  • BCPによる災害に強いモノづくりの実現
  • レジリエンスの高いサプライチェーンの構築

事業インパクトの定量評価

リスク 財務影響 算出方法
炭素税の導入 124億円 炭素価格はIEA「World Energy Outlook 2022」における2030年の先進国予想炭素価格140USD/t-CO₂を採用。CO₂排出量(スコープ 1・2)は当社の2030年度目標610千t-CO₂を基に算出。
洪水被害 422億円 世界資源研究所(World Resources Institute)が提供する水リスクの分析ツール「Aqueduct」を用い、洪水リスクが高いと評価された38拠点が全て被災した場合の影響を評価。国土交通省の「TCFD提言における物理リスク評価の手引き」を参考に、固定資産・在庫の毀損および操業停止による機会損失の影響額を算出。

今後は事業インパクト評価の質的改善に努めるとともに、気候変動リスクを効果的に低減する取り組みを推進していきます。

リスク管理

下図に示した階層毎にリスク調査を行い、調査結果を相互利用していく仕組みを構築しています。

世界の各拠点に設置したリスク管理者を中心に、事業継続を妨げる要因の早期の察知と的確な対応に努めています。洪水、干ばつなどのリスク発生を想定し、BCPのシミュレーション訓練を国内外の拠点で実施すると同時に、厳格化する気候変動関連法令の遵守、変化する市場動向への適応、並びに顧客、投資家その他ステークホルダーとのコミュニケーションの強化に焦点を置いた対策を通じ、気候変動リスクの総体的把握とその軽減に注力しています。

指標と目標

NIDECグループは中期戦略目標Vision 2025およびESGマテリアリティ対策の大きな軸の一つとして、2040年度CO₂排出量ネットゼロの実現を目指しています。2023年度にはCO₂排出量の第三者検証を受審し、国際的なイニシアチブであるSBTi(Science Based Targets initiative)のガイドラインに沿って2030年度までのCO₂削減目標を策定しました。この目標は、パリ協定における「1.5℃目標」を達成するための科学的根拠に基づいた目標と認められ、SBT認定を取得しました。

スコープ1・2排出量削減目標

スコープ1・2排出量削減目標

スコープ3排出量削減目標

スコープ3排出量削減目標

また、「持続可能な地球環境への貢献」をマテリアリティの一つとして特定し、以下の目標を定めています。

マテリアリティ

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